付き合いでの風俗利用、ネット上で知り合ったお相手と今夜予定がある、自分や相手が不特定多数と性行為を行っている——そうした場面で「コンドームをつけていても不安」という方に向けた、新しい性感染症予防の選択肢の1つが DoxyPEP(ドキシペップ) です。

DoxyPEP(ドキシサイクリンの曝露後予防)とは
DoxyPEPは、性行為のあと72時間以内にビブラマイシン(ドキシサイクリン)1錠100mgを2錠まとめて1回内服することで、梅毒・クラミジア・淋菌の感染を減らすことを目的とした方法です。海外で行われた臨床試験の結果をもとに広まった考え方で、性行為の「あと」に行う予防(曝露後予防=PEP)にあたります。

効果は病原体と対象集団によって差があります。
WHOは2026年に、doxy-PEPに関する初のガイドラインを公表しました。MSM(男性と性交渉をする男性)およびトランスジェンダー女性に対し、細菌性の性感染症の予防としてdoxy-PEPを提供してよいとする条件付きの推奨です(エビデンスの確実性は中程度)。ただし包括的な性の健康サービスの一部として提供することが前提とされています。
| 病原体 | 相対リスク(WHO 2026) | エビデンスの確実性 |
|---|---|---|
| 梅毒 | 0.20(95%CI 0.11〜0.37) | 高 |
| クラミジア | 0.15(0.10〜0.23) | 高 |
| 淋菌 | 0.52(0.40〜0.68) | 中 |
米国CDCも2024年にガイドラインを公表しており、「3つの大規模ランダム化比較試験で、性行為後72時間以内のドキシサイクリン200mg内服が梅毒とクラミジアを70%以上、淋菌を約50%減らした」としています。
淋菌については評価が分かれています
梅毒とクラミジアの減少は複数の資料で一致していますが、淋菌については結果が一致していません。
- WHOは淋菌でも減少を認めていますが、効果は地域のテトラサイクリン耐性の状況によって変わるとしています
- 4件のランダム化比較試験(1,727人)を統合したシステマティックレビュー(Sokoll PR, et al. 2025)では、梅毒77%減(確実性 高)・クラミジア65%減(低)に対し、淋菌は有意な減少が認められませんでした(相対リスク0.90、95%CI 0.64〜1.26、確実性 きわめて低い)
- 個別の試験では、米国のDoxyPEP試験(N Engl J Med. 2023)でPrEP利用者の淋菌が相対リスク0.45(約55%減)と報告されています
「淋菌にも確実に効く」と考えるのは適切ではありません。梅毒・クラミジアの予防を主な目的とし、淋菌については効果が限られる可能性を前提にしてください。
耐性菌への影響は評価が続いています
- 米国のDoxyPEP試験では、テトラサイクリン耐性の淋菌が内服群13例中5例、標準ケア群16例中2例で確認されています
- 上記のシステマティックレビューも「耐性菌の誘導と長期の有害事象についての情報はまだ不足している」と結論づけています
CDCが示している対象と使い方
- 対象:MSM・トランスジェンダー女性で、直近12か月に梅毒・クラミジア・淋菌のいずれかと診断された方。医師と相談のうえで判断します
- 用量:200mgを性行為後72時間以内に内服。24時間あたり200mgを超えない
- 検査:開始時と3〜6か月ごとに、接触があった部位で性感染症の検査を行う
- 継続の必要性も3〜6か月ごとに見直す。リスク低減のカウンセリング・ワクチン・HIV PrEPなどと組み合わせて行う
※これらの数値は海外の臨床試験にもとづく目安です。対象となった集団や試験によって結果は異なり、とくに淋菌に対する効果は試験ごとに差が報告されています。感染を確実に防ぐものではないため、内服したあとも定期的な検査を続けてください。
当院でDoxyPEPを処方する際の条件
当院では「抗菌薬が効かない耐性菌が出現する可能性」を作らないために、梅毒・淋菌・クラミジアの陰性確認検査を行ったうえでの処方としています。すでに感染している状態で内服しても効果が期待できないばかりか、耐性菌の原因になりうるためです。
DoxyPEP処方についての基本方針
【DoxyPEPとは】
性行為後72時間以内に内服することで淋菌・クラミジア・梅毒の感染を防ぐお薬です。
既に罹患している状態での内服は効果がないだけでなく、耐性菌の原因となるため、
性感染症罹患を否定した上で処方されるお薬です。
【処方条件】
6か月以内に淋菌・クラミジア・梅毒検査を実施し、陰性確認が取れていること。
※処方にあたって検査結果の分かるもののご提示が必要となります。
【注意事項】
・他院様等で検査をすでに受けられている場合は検査結果のわかるものをお持ちください。
・予防率は100%ではないため、処方後も6ヶ月毎を目安に定期検査を受検する必要があります。
・一部検査のみ実施の場合も原則処方不可となります。
(例:淋菌・クラミジア:検査済 梅毒:検査未実施 など)
条件を満たしている場合も最終的な処方可否は医師判断になるため、処方を確約するものではありません。
陰性確認の検査からご希望の方は、来院前にWeb問診を済ませておくとスムーズです。→ 事前Web問診に進む
DoxyPEPの根拠となった研究
DoxyPEP試験(米国・2023年)
DoxyPEPという考え方が広く知られるきっかけになったのは、米国で行われた無作為化比較試験の結果です(Luetkemeyer AF, et al. N Engl J Med. 2023)。HIVの曝露前予防(PrEP)を利用している方、またはHIVとともに生きている男性同性愛者・トランスジェンダー女性を対象に、性行為後72時間以内のドキシサイクリン内服が細菌性の性感染症を減らすかどうかが検討され、梅毒とクラミジアで感染の減少が示されました。淋菌については、集団や試験によって結果に差があると報告されています。
IPERGAY試験(フランス)
これに先立つフランスのIPERGAY試験でも、HIVの曝露前予防を受けている方における曝露後のドキシサイクリン内服で、細菌性の性感染症が減る傾向が報告されています。ただし淋菌に対する効果は梅毒・クラミジアほど明確ではなかったと報告されており、この点はその後の試験でも共通した課題になっています。
諸外国での位置づけと、残されている課題
米国CDC(疾病予防管理センター)は2024年に、doxy-PEPの使用に関する臨床ガイドラインを公表しています(MMWR Recomm Rep. 2024;73(2):1-8)。一方で、抗菌薬を繰り返し使うことによる薬剤耐性への影響は現在も評価が続いている段階であり、誰にでも勧められる方法ではありません。薬剤耐性(AMR)については厚生労働省やAMR臨床リファレンスセンターの資料もあわせてご覧ください。
なお日本国内では、性感染症の予防を目的としたドキシサイクリンの投与は承認された使い方ではありません。当院での取り扱いについては次の項目をご確認ください。
適応外使用に関する重要なお知らせ(自由診療)
DoxyPEP(性感染症の曝露後予防を目的としたドキシサイクリンの内服)は、日本国内で承認された効能・効果ではありません。以下を必ずご確認のうえ、ご相談ください。
■ 国内で承認された効能・効果ではないこと(適応外使用)
DoxyPEPに用いるビブラマイシン(一般名: ドキシサイクリン塩酸塩水和物)は国内で承認されている医薬品ですが、性感染症の予防を目的とした投与は、承認された効能・効果には含まれていません(適応外使用)。そのため自由診療となり、公的医療保険は適用されません。
■ 入手経路
当院が用いるのは国内で承認され、国内で流通している医薬品です。個人輸入や海外からの輸入品ではありません。これを医師の判断のもとで、承認された効能・効果とは異なる目的(予防)に処方しています。
■ 同一成分を含む国内承認医薬品の有無と、承認されている効能・効果
同一成分の医薬品は国内で承認されていますが、承認されている効能・効果は各種感染症の「治療」であり、性感染症の「予防」を目的とした投与は含まれていません。国内で承認されている医薬品の添付文書は、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の医薬品情報検索でご確認いただけます。
■ 諸外国における安全性等に係る情報
米国CDC(疾病予防管理センター)は2024年に、性感染症の予防を目的としたドキシサイクリンの曝露後予防(doxy-PEP)に関する臨床ガイドラインを公表しています。ただし推奨の対象となる方の範囲は国や指針によって異なり、薬剤耐性への影響については現在も評価が続いています。
■ 医薬品副作用被害救済制度について
医薬品副作用被害救済制度は、医薬品を適正に使用したにもかかわらず生じた副作用が対象です。承認された効能・効果と異なる使い方(適応外使用)の場合、重篤な副作用が生じても給付の対象とならない場合があります。この点をご理解のうえ、医師とご相談ください。
まとめ
予測しなかった事態が起きてしまったあとでも、できることがあります。当院では当日に検査結果を確認し、条件を満たす場合はその日のうちに処方・服用いただけることもありますので、お気軽にお申し付けください。休診日なく診療しておりますので、ご都合のよいお時間にお越しください。
DoxyPEPは感染を確実に防ぐ方法ではなく、内服後も定期的な検査が欠かせません。心当たりのある行為があれば、上野院なら予約不要・匿名で当日検査が可能です。 → WEB問診で来院準備をする
参考文献
- Luetkemeyer AF, et al. Postexposure Doxycycline to Prevent Bacterial Sexually Transmitted Infections. N Engl J Med. 2023;388(14):1296-1306. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37018493/
- CDC Clinical Guidelines on the Use of Doxycycline Postexposure Prophylaxis for Bacterial Sexually Transmitted Infection Prevention, United States, 2024. MMWR Recomm Rep. 2024;73(2):1-8. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38833414/
- 厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html
- AMR臨床リファレンスセンター https://amr.jihs.go.jp/
- 厚生労働省「性感染症」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/index.html
- JIHS 国立健康危機管理研究機構「梅毒」 https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/syphilis/index.html
- JIHS 国立健康危機管理研究機構「性器クラミジア感染症」 https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/chlamydia-std/index.html
- JIHS 国立健康危機管理研究機構「淋菌感染症」 https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/gonorrhoea/index.html
- PMDA 医薬品医療機器総合機構「医薬品情報検索」 https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/
- WHO「Guideline on doxycycline post-exposure prophylaxis for sexually transmitted infections among men who have sex with men and transgender women」(2026)https://www.who.int/publications/i/item/9789240124110
- Bachmann LH, Barbee LA, Chan P, et al. CDC Clinical Guidelines on the Use of Doxycycline Postexposure Prophylaxis for Bacterial Sexually Transmitted Infection Prevention, United States, 2024. MMWR Recomm Rep. 2024;73(2):1-8.https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/rr/rr7302a1.htm
- Sokoll PR, Migliavaca CB, Döring S, et al. Efficacy of postexposure prophylaxis with doxycycline (Doxy-PEP) in reducing sexually transmitted infections: a systematic review and meta-analysis. Sex Transm Infect. 2025;101(1):59-67.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39097410/
この記事の監修者
監修: 川崎検査クリニック川崎院 院長 大宅 裕之(おおたく ひろゆき)
2021年 山口大学医学部卒業。山口赤十字病院での勤務を経て、2025年より川崎検査クリニックにて男性専門の性感染症外来に従事。2026年7月、同院長に就任。検査から治療までの診療を行う。
最終更新日: 2026年8月24日

